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金融市場…自信過剰から幻滅への道筋2

 

UPDATE 2014.07.03

アルゼンチン国債30億ドルが飛ぶように売れていた史上最大のバブル。この国債バブルは過去何度も発生したバブルであるにも関わらず、その教訓が生かされることはなく、今回も過去と同様の道筋を歩んでいる。
このことをボブが見事に解説している。特別にボブの解説を紹介し、この問題の本質を読み取って頂きたい。

インスティテューショナル・アドバイザーズ
ボブ・ホウイ

時代の転換点を読む 2014年6月18日号より
国債という名の乱痴騒ぎ だれも何も学ばなかった

〔前回のバージョンを刊行したのは2011年6月29日で、オリジナル版の刊行は2010年2月23日でした〕

どこかの国が債務不履行を起こす可能性は日増しに高まっている。当然ながら、この事態は「いったい金融市場はどこまで悪くなるのか?」という疑問を呼び起こす。この号のタイトルにいただいた「だれも何も学ばなかった」というくだりは、1933年に当時の国家債務の不履行についての研究書から引用したものだが、この本の著者は国家による債務不履行の前には、「だれもかれもがとにかくカネを借りたがる新しい乱痴気騒ぎ」があったと証言している。

この「新しい」という形容は重要だ。国家債務の不履行に関する文献には、ひんぱんに「財政の新しい時代」という表現が出てくるからだ。最初の「財政の新しい時代」を導き入れた「南海の泡沫」事件は1720年6月に勃発し、その後5回の同じような事件のモデルとなった。そのたびに、「国家の財政と金融は、今までになかった新しい地平を切り開いた」と大げさに触れ回られたわけだ。そして、最新の事例が2007年に噴出した国際金融危機だった。

熱狂的な金融ブームが起きるたびにいちばん注目を集めるのは株式市場だが、投資家は利回りを求めて債券市場でも似たようなブームを起こすし、ブローカーにとってはコミッションさえ稼げれば、株でも債券でも何でもいいことも、いつの世にも変わらない真実だ。バブル崩壊後の経済収縮と、それにともなう乱痴気騒ぎのあとで後悔と自責の念へといたる世相の変化には決まりきった道筋がある。債券市場でまずやられたのはサブプライム・ローンで、次に社債市場に被害が波及し、最近では各国国債市場が急速に収縮する気配を見せている。話題の焦点はPIIGSと略称されるポルトガル・アイルランド・イタリア・ギリシャ・スペインだが、もし歴史の教える教訓に何ほどかの意味があるとすれば、これは各国国債市場が抱えている歴史的な大問題が明るみに出る過程での最初の一歩に過ぎない。

1825年に派手な大暴落として終末を迎えた「新しい時代」のころは、ロンドンが唯一の国際金融センターで、シティの金融街からはロシア、プロシャ、スペイン、そして何カ国ものラテンアメリカ諸国の国債や大都市の自治体債が発行された。

たとえば、1822年に額面に対する利回り6%で発行されたペルー国債は、額面100に対して88の価格で発行されたので、償還時まで持ちつづけた場合の総合利回りは6.95%だった。次にペルー国債が発行されたのは1824年だったが、82で発行されたので償還時までの総合利回りは7.50%に上がっていた。さらに、1825年には78で発行されたので、償還時までの総合利回りは7.85%まで上がっていた。そして、市場の流動性が失われ、バブル崩壊後にはつきもののデフレによって市場が崩壊した。約70行のイギリスの銀行が倒産し、イングランド銀行を救うにはロスチャイルド家の支援が必要だった。

いつもの通りに好況から不況への景気大転換が起き、経済収縮は1840年代半ばまで続いた。

その次にやってきた長い経済拡大期は、1873年の資産投機にいたって幕を閉じた。この金融ブームの頂点で信用市場はもうかなり緊迫していた時期に、ニューヨークのある新聞は社説で「何もかもうまく行く。心配することは何もない」と主張した。その論拠は、「アメリカは中央銀行を持っていないので、ゴールドに縛られた中央銀行がウォール街に要求されるほど潤沢な資金供給をできないという事態には陥らない。つまり、いくらでもマネーサプライを増やせるのだから、経済が不況に陥ることはない」ということだった。

当時の財務省とその信任の厚い長官に対する信頼は絶大で、市場から債券を吸収するためにならいくらでも紙幣を発行することができるので、信用不安など起きるはずがない……はずだった。

向こう見ずがいたるところで大流行していたが、中には理性的な意見を述べる人もいた。イギリスの『エコノミスト』誌は1872年4月27日号で、読者にこうアドバイスしていた。

「しょっちゅう借金をしている国は避けるように。なぜなら、そういう国は古い借金に対する利子を新しい借金で払っている状態なのだから」

また、1873年に破綻した各国国債市場の崩壊にいたる道筋も、英『エコノミスト』誌の見出しを読んでいるだけではっきり分かる。

6月7日号:「迫り来るスペイン国債の債務不履行」

7月5日号:「スペイン政府、発行済み国債のクーポン支払い条件を調整中」

8月2日号:「スペイン、国債の金利を支払わず」

8月30日号:「スペイン、無政府状態に」

ごく最近、2001年のアルゼンチン危機については、さまざまな出版物が経緯を伝えている。注目すべきは、この年の6月にいたるまで、「リスクのある金融商品への買い意欲は目に見えて改善した」というコメントが出ていたという事実だ。

2001年7月18日:「市場はアルゼンチン国債に関する合意成立を喝采——債務不履行懸念を鎮める」

2001年8月3日:「アルゼンチンの債務不履行を防ぐために、あちこちでひんぱんに国際的な接触が持たれている」

2001年12月14〜20日:「怒れるアルゼンチン国民、不満を街頭にぶちまける」
「アルゼンチン、金融封鎖状態に置かれる」
「都市圏で略奪事件が頻発」

金融市場の自信過剰から幻滅への道筋には不変のパターンがあるようだ。今回もまた同じような道筋をたどるのか、興味深々だ。1873年の大恐慌でも、国債市場の危機にはさまざまな国が関わっていたが、それについて経済史家S・G・チェックランドは、こう書いている。

「多くの半野蛮国とさえ言えるような国々が資金を借り入れて、そのカネを愚鈍きわまる用途に浪費していた」

2001年のアルゼンチン危機では、他の国が債務不履行に巻きこまれることはなかった。

しかし、1930年代に世界中の格付けの低い債券がいっせいに債務不履行に陥ったが、これはバブル崩壊後の経済収縮にはつきものの現象だったことに疑問の余地はない。チェックランドとは別の歴史家が、同じく1933年にフィラデルフィアのローランド・スウェイン出版社から出した『外国債市場——その死体解剖』という本に、そのへんの事情が明示されている。

「ラテンアメリカ諸国の金融市場の特徴は、政府の債務不履行が頻発することだ。借り入れの拡大と債務不履行がほとんど完璧な規則性を持ってくり返される。政府による金利支払いが再開されるやいなや、過去はきれいさっぱり忘れ去られ、借り入れ競争の乱痴気騒ぎも再開される。19世紀の初頭に始まったこの借り入れ拡大と債務不履行のサイクルは、今日ただ今まで延々と続いてきた。だが、だれもこの歴史的事実から何ひとつ学んでいない」

金融市場は、いったいどこまで悪化すれば収まるのだろうか? 典型的な例で言えば、バブル崩壊後の経済収縮は、国債市場をふくむありとあらゆる金融市場に被害を及ぼす。経済収縮が金融市場を崩壊させる過程はすさまじいものとなり、貸し手側も借り手側も二度と向こう見ずなカネ儲けには手を出さないと誓うまで、果てしなく続く。

そして、今回もまた続編が書き記される。

国債という名の乱痴気騒ぎ 2010年版

2010年1月14日:「ギリシャ金融安定化政策を発表」

同年1月21日:「投資家はギリシャが財政赤字をまかないきれないのではないかと懸念している」

同年2月14日:「何年にもわたる抑制の利かない浪費、低利での金融、そして改革をきちんと励行できない政治」

同年2月24日:「ギリシャ、警察とデモ隊が衝突」

同年4月11日:「緊急支援、可決される」

同年8月10日:「ギリシャ債務危機、やっと終息」

同年8月10日:「ギリシャは今回の危機の一部に過ぎず、新聞見出しからは消えつつある」

同じく2011年版

2011年5月29日:「何千人ものデモ参加者たちが口々に、ギリシャの支配階級全体を糾弾」

同年6月28日:「ギリシャ債務危機、大規模ゼネストを招く」

同年6月28日:「ギリシャ国会、『国民全体を心中に追いこむような緊縮政策』に関する採決を迫られるか」




2010年8月10日:「ギリシャ債務危機、ようやく終息」 当時の利回り:9%

2011年6月28日:「ギリシャ、『国民心中』にもひとしい緊縮政策に関する投票迫る」 当時の利回り:30%

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