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UPDATE 2014.06.24 |
今週の1枚●米国株式市場における自社株買いとアップル株の限界
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米国株式市場における株価の高値は、自社株買いによるものであると以前紹介したが、それは余りにも歪んだ資本政策によって行われている。
オラクルの2007年以降の自社株買いと設備投資額推移を見ると、設備投資額は2008年夏に一過性の増加があった他は低迷が続く一方、自社株買いは2011年から急激に増加している。経営陣が自分の任期中に株価を吊り上げ、ストックオプションを行使して株を高値で売り抜ける為に採られた歪んだ資本政策では、事業による収益増加など望めるはずもなく、景気回復はおろか回復感すら感じることは出来ない。
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SP500採用銘柄における自社株買いの総額と実施社推移をみると、2008年リーマンショックによる底打ち以降、一時的な調整はあれど、右肩上がりで増え続けている。その結果、SP500株価は史上最高値を更新し、自社株買いを実施している企業数もリーマンショック前の規模に並んだ。
米国株式市場は自社株買いとジャブジャブの金融緩和で高値を付け続けている。一般国民の生活が困窮していく一方で、金融資産を持つ一握りの富裕層がますます資産を増やすという、米国社会の格差は広がる一方である。
しかし、この歪んだ構造も、限界を迎えている兆候がある。
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米国株時価総額1位のアップル社も、自社株買いにより時価総額を上げてきた企業である。2013年6月からの1年間の時価総額推移を見ると、一時的にエクソンモービルに1位を譲ったことがあったが、2位を大きく引き伸ばしてきた。
しかし、2014年6月9日に行ったアップル株1:7の株式分割が、株式市場激変の予兆となっている。
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「アップル株の分割は過去3回(1987年4月22日、2000年4月19日、2005年2月11日)実施されたが、いずれも分割後3〜10営業日のうちに株価は天井を打ち、分割後1ヵ月以内に50日移動平均まで下落していた」チャートワークス 2014年6月2日号 アップルより一部抜粋
6月9日に7分割を行った後、しばらくは堅調だったアップル株が、6月20日の後場、引け直前に2450万株もの大量売りが行われた。その前日に、iウォッチに関する好材料で一気に株価を上げたにも関わらずである。
過去3回の株式分割同様、今回もアップル株が下落すれば、これまで米国株式市場をけん引してきたアップル株の下落は、株式市場全体に大きな衝撃を与えることになる。しかも今回は、実体経済が後退している中で、金融市場だけがバブルとなっている状況下の為、その影響は過去3回を軽く上回るほどの規模となるだろう。
●異次元の金融緩和で、流動性危機を迎えた日本国債
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日本国債は、大部分を日本国民と日本の機関投資家が持っているので、他国のように外国の売りによって価格が急落する心配がないとされてきたが、ここにきて様子が変わってきた。
日銀による異次元の金融緩和で、日銀が日本国債を大量に購入している。2011年以降、3年強で日銀は総資産を2倍強に膨らませた。その大部分が日本国債購入によるものである。
これだけ日本国債を購入したことにより、機関投資家でさえ国債の購入を控え、国債市場から逃げ出している。その為、国債市場の流動性がなくなってしまった。更に悪いことに、日銀の資産増加分の大半が、実質マイナス金利である為、価格下落により損失が出てしまう可能性が非常に高い。
いくら日本国内で日本国債を保有していると言っても、国債価格が下がれば民間企業は売りに転じざるを得なくなり、売りによって価格が下がり、それがまた売りを呼ぶというスパイラルに陥る可能性がある。日銀の金融緩和は、国債価格崩壊を招く最悪のシナリオを作りつつある。
●転換点を迎えつつある為替市場
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アベノミクスにより100円前後で推移していた為替相場が、転換点を迎えつつある。
安倍政権誕生を契機に、史上最高水準の円売り建て玉が続いており、円安が続いてきた。この円売り建て玉を持つのが、「機関投資家」か「ミセスワタナベ」かで、この後の円相場が大きく変わってくる。
過去の事例から鑑みると、機関投資家であれば円高へと転換し、ミセスワタナベであれば更なる円安へと進む。
いずれにせよ、これだけ長きにわたり売り建て玉が続いている為替相場は、重要な局面に入っている。
●前代未聞のスケールで進む中国危機
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中国の国内債務は約7年間で対GDP比87%も伸びている。これは米国、日本、韓国、英国の景気上昇期と比較しても、群を抜いた高さである。それに伴い、中国の銀行業界総資産も6年間で約3.7倍も増加している。
日本のバブル期、国内債務は対GDP比率45%の増加である。日本のバブル崩壊後、債務処理にどれだけ苦しんだかは記憶に新しいところだが、対GDP比率で87%も増加した国内債務を抱える中国に金融危機が起これば、史上最大規模の経済破綻が待っている。
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中国における新規住宅着工面積が、ここにきて一気に大激減となり、前年同期比でマイナス30%を下回った。これまで何度もマイナスに転じたことはあったが、マイナス30%を下回ったのは初めてである。これは民間不動産投資の急収縮によるものであり、中国の国内投資に赤信号が灯ったようだ。新規住宅着工が激減すれば、建設資材の需要も減り、中国資源浪費経済にも影響を及ぼすのは必至である。
中国の理財商品は6月末日に大量償還を控えているが、その中には不動産ディベロッパーの資金調達手段となっているものも多い。これだけ生産を縮小していれば、債務不履行というケースも増えるだろう。
前代未聞の規模で進む金融危機と資源浪費経済の急収縮は、中国経済崩壊をますます加速させるだろう。
●金価格上昇の予兆
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金先物市場で、金の短期先物売りによる儲けを目論んだ取引が、見事に失敗した形跡がある。
6月18日、金先物に巨額な売りが行われた。これまでであれば、これだけ大きな売りが起これば、それに反応する金売りによって金価格が大きく下がり、下がったところを翌日の巨額の買い戻しを行って利益を出していた。
しかし、今回はその目論見が見事に外れ、金価格は下がるどころか上昇し、翌19日には、前日の売りを上回る額で買い戻しを行い、金価格が急伸する結果となった。その後の金価格動向を見ると、中長期的な上昇期に突入したと考えられる。
どのような機関がこの取引を行ったかは分からないが、金の売買量がほぼ同じだったことを考えると、相当大きな機関が、この取引で莫大な損失を抱えたことになる。この損失が露呈した時、金融市場に大きなインパクトを与えることになるだろう。
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金鉱山株が、金地金価格に先行して上昇している。これまでの金鉱山株と金地金価格との関係性を見ると、金鉱山株が金地金価格に先行して上昇するという構図は、健全な上昇基調の兆候である。金価格の上昇期には、金鉱山を経営する企業は値上がり益に増産というギアリングをかけることが出来るので、金地金の値上がり率を金鉱山株の値上がり率が上回るのは自然な現象である。
短期先物売りによる金価格下落もなく、金鉱山株が金地金価格を先行して上昇する健全な状況は、金の市場において明るい未来を予兆するものである。
【最後に】
歴史的転換点となり得る様々な出来事が起こっている。実質マイナス金利という不自然な高値で、日本国債を買うことで国債市場の流動性を奪った日銀、自社株買いで株価を吊り上げているSP500採用銘柄各社、中国の金融・経済危機。この3つが、どのような順番で崩壊するのか、また同時に起こるのか、いずれにしても、全世界的な問題になることは間違いない。