秋の大暴落(チャートワークス2008年10月14日号より) |
UPDATE 2013.06.27 |
ジャズスタンダードの古典『ニューヨークの秋』の歌詞には、いくつか興味深い言葉が散見される。例えば「無一文になった夢見る人たち」とか「しばしば苦痛とない交ぜになって」といったくだりだ。
しかし、こうした歌詞は、ごく最近の金融市場を写実的に表したものと考えれば納得がいく。もう少し、明るい雰囲気のくだりを見て見よう。
「なぜ、ニューヨークの秋はこんなにも人を招き寄せるのか?」
理由その1。市場の雰囲気はこれ以上暗くなりようがないほど暗くなっている。つまり、大半の強気派が弱気に鞍替えしてしまったから、人を招き寄せる魅力が出て来たのだ。
理由その2。先週の月曜日(10月6日)に刊行した『チャートワークス』で、「もしも金曜日まで下げ続けたら、下方屈曲点が形成される」と予告しておいたが、その通りになったからだ。そして、その後のアップデートで、こうしたサインが出たのは1966年以来だが、その前ということになると1929年〜1932年のベアマーケットのさなかに3回出ていることを指摘した。
きちんとした記録が残っている最初の歴史的な”秋の大暴落”は、北イタリアの金融センターで起きた。チポラ著『14世紀フィレンツェの金融政策』(1962年刊行)は、「1343年〜1436年の大暴落」という章で始まる。問題の核心は、景気の後退と公債の残高が大きくなりすぎた点にあった。当時公的機関が発行した債券は譲渡可能ではなかったが、1345年10月25日に譲渡が認められた。だが、この政策変更はフィレンツェ政府の金利支払い能力を疑問視していた債券保有者の投げ売りを誘ってしまい、マーケットはたちまちのうちに暴落する。この暴落の過程で、ゴールドと銀の相対価格、つまりGSR(ゴールドシルバーレシオ)には荒っぽい乱高下が見られたと著者は記している。
この大暴落前には、債券は「完璧に安全」で、大投資家にも中小投資家にも魅力的な利回りが期待できる投資対象として推奨されていた。この暴落に関して、当時の年代記作家G・ヴィラーニは「マンカメント・デラ・クレデンツァ」、訳せば「信用の欠乏」という表現を使っている。彼はまた「リンバルツォ」、現代語に訳せば「乗数効果」という言葉も使って、信用収縮の悪循環を表している。
1500年代や1600年代にも市場が激変する事件は起きていたが、1600年代後半以降は市場参加者も増え、中央銀行も登場し、完全に近代的な市場が既に形成されたといえる状態にまでなっていた。以後、金融業界を揺るがす大暴落の第一幕となるセイリングクライマックス(株価全面安)は、例外なく9〜10月に起きていた。底値試しは大体11月に終えるケースが多かったが、1825年の1件だけは底値の確認が1月にずれこんだ。
大暴落第一幕の底値を記録した日付
1929年:11月10日
1873年:11月7〜15日
1825年:1826年1月
1772年:11月
1720年:11月20日
このレポートは非常に綿密なもので、将来の為に取っておく価値のある図表集となっている。
2008年10月14日の火曜日は8日間続いた売りパニックの完了を確認し、2008年10月6日の予告通りの展開となった。8月からの下げ幅の40〜50%を回復するのは可能だと予想されていたが、S&P500が44%戻すとすれば、その時点でこの目標は基本的に達成されたと言えるだろう。今回も底値試しは2008年11月になると予想される。
ダウ平均とS&P500の下方屈曲点(キャピチュレーション)警報
現在のような中間的なレベルの底値は、11月頃に始まるリバウンドによって、8月からの下げ幅の40〜50%(S&P500で言えば、1020〜1075、ダウ平均で言えば9470〜9870)を回復する動きを示唆する。もしリバウンドが50%を超える上げ幅となれば、何かとんでもなく強気になれる材料が市場に存在することを意味する。
逆に50%の抵抗線を超えることができなければ、S&P500で840あたりを試しにくい展開となるだろう。この底値試しは週次で前週より高い安値か、短いアンダーカットのあとジャンプという形を取るかもしれない。もし底値からの反転に成功したら、その後数週間にわたるラリーとなるだろう。だが、底値を突き抜けて下がるようならば、もう一度暴落局面を覚悟しなければならない。
先週発しておいた「下方屈曲点」警報が今週の展開で確認されたことは言うまでもない。指標がほんの少しでも下げれば、警報発令ということになっていたのだが、近代株式市場でも有数のひどい下げになってしまった。週次で下方屈曲点サインが出るのは非常に珍しいことで、ダウ平均やS&P500で言えば、1900年以来でたった13回しか起きていない。しかも、日次でも珍しいサインが2日間出ている。ダウ平均やS&P500で、この2日間連続の日次サインが出たケースを最新の事例から順に列挙しておくと以下の通りだった。
2001年9月19〜20日、1994年3月31日と4月4日、1969年7月28〜30日、1969年2月27〜28日、1966年8月22〜23日、1962年5月25〜29日、1939年4月6〜10日、1932年5月31日〜6月1日、1931年4月28〜29日
ダウ平均について言えば、最後に週次の下方屈曲点サインが出たのは1966年で、それ以前となると1929〜1932年のベアマーケットの後半までさかのぼる必要がある。さらにその前には2つの同様のサインが出たケースがあって、1903年10月16〜23日と、銀行危機に見舞われていた1907年10月18日〜11月22日である。
S&P500は、1950年以降7回にわたって週次のサインが集中した期間を記録している。これらのサインが出たのは、どれも数カ月間にわたる重要な底値近辺でのことだった。
1962年6月8〜21日、1966年8月26日〜9月2日、1970年5月22日、1974年9月13日、2001年3月23日、2001年9月21日、2002年7月19〜26日
このサイン前後の動きは一貫している。こうした下方屈曲点サインが出た12回のうち7回はその週か次の週に底値を付けている。そして3回は、サインが出てから2週目か3週目に底値を付けている。結論として、今月後半のうちに底打ちする可能性は非常に高い。
(図表でも分かる通り)下方屈曲点となった底値のうち8つの事例で連続的な買いシグナルが形成された。そのうち6つの事例では、ふつう下方屈曲点から大底までは9週間かかるのに対して、大底に達するまで7週間しかかからなかった(ただし、残る2つの事例では、2002年には9週間、1974年には13週間かかっている)。我々は2008年10月14日段階で最初の下方屈曲点サインから7週目に入っていた。もし10月17日の引け値が9月19日の引け値よりも低ければ、定石通り7週目の大底を形成しているはずであり、底打ち反転の可能性が高い。
もうひとつ、よく用いられる分析道具は、「マーケットが下方屈曲点に達するまでに37日間ないしは55日間にわたって下降局面が続く」というものだ。ダウ平均を使うかS&P500を用いるかで異なるが、10月27日は8月に市場が大天井を付けてから42営業日目、または46営業日目にあたる。また、秋の大暴落はほとんどの場合10月下旬に終わっているという季節要因上の経験則もある。
2008年10月3日段階で、ダウ平均は27%下がり、通常の天井から重要な安値までの典型と言える下落率だった。だが、その直後の10月10日までの下落率が累計で天井から44%に達したので、この下げは20世紀を代表するような大暴落と肩を並べることとなった。1929〜32年の例では、その後もっと大きな下落率になったが、1929年11月までの最初の暴落の下落率は49%にとどまり、その後1930年4月までの約50%に対する中間反騰で戻しがあった。